初等中等教育段階における生成 AI ガイドライン改訂素案が公表ー現行版との違いや内容についてー
- kentakk14
- 2024年11月28日
- 読了時間: 9分
11月26日に初等中等教育段階における生成AIの利活用に関する検討会議(第6回)が開催されました。今回の検討会議では、ガイドラインの改訂版の素案が出されました。
今回はその素案の内容を簡単に紹介したいと思います。
※この記事はあくまでも概要を知りたい方向けの内容となります。また私の主観が含まれる可能性がある点はご了承ください。
正確な内容を知りたい方は直接以下にアクセスしてください。
現行ガイドラインと素案の違い(主観的)
1.「パイロット的に取り組むことが適当」の文言がなくなっている。
→教育委員会の方針に従い、準備が整えば生成AIの使用開始が可能となると考えます。ただし、ここでの「準備」とは事前教育や保護者への周知などを含むため気軽に取り組むことが可能ではないという印象を受けました。
2.教師の利活用が強調されている。
→自治体によっては利活用が開始されているところもあると聞きます。まずは教師の利活用から始めていくべきと考えているようで、具体的な活用例も示されています。
3.児童生徒の利活用について具体的に記述されている。
→利活用場面も具体的に示されており、利活用の際のポイントも提示されています。こちらも準備が整った自治体から開始されることが予想されます。ただし、小学校については慎重な対応が求められます。
4.教育委員会に向けた留意事項についても示されている。
→生成AIを利用するには、各自治体の教育委員会が主導して制度を設計したり、利活用の方向性を示すことが必要となります。この方針を作る際の留意点が示されています。前回は教育委員会についての項目がなかったため、本格運用に向けて始動していく印象を受けました。
次にガイドライン(素案)の内容を紹介します。
ガイドラインの位置付け
教職員や教育委員会等の学校教育関係者を対象として、学校現場における生成 AI の適切な利活用を実現するための参考資料として、利活用に当たっての基本的な考え方や押さえるべきポイントをまとめたものです。学校現場での生成 AI の利活用に関して一律に禁止したり義務付けたりするものではないとされています。
「1.生成 AI の概要」「2.基本的な考え方」「3.学校現場において留意すべきポイント」で構成されています。今回の記事では構成上「1.生成AIの概要」は割愛いたします。
基本的な考え方
(1)学校現場における人間中心の生成AIの利活用
素案では、生成 AI は人間の能力を補助、拡張し、可能性を広げる有用な道具とされています。そして、子どもの資質・能力の育成を阻害しないか、教育活動の目的の達成に効果的か検討した上で利活用すべきであり、人間が判断し、生成 AI の出力結果を踏まえた成果物に自ら責任を持つという基本姿勢が必要だと述べられています。
(2)生成 AI の存在を踏まえた情報活用能力の育成強化
生成 AIの仕組みの理解や、学びに生かす視点、使いこなすための力を各教科等の中においても意識的に育む姿勢が重要だとされています。また、生成 AI が普及することを念頭にし、情報モラルを含む情報活用能力の育成を充実させる必要があると述べられています。
現行の学習指導要領において情報モラルの指導が明記されている道徳科、社会科、技術・家庭、地理歴史、公民、情報科等だけではなく、各学校段階での学習内容に応じて各教科等や生徒指導との連携も図ることが重要とされています。
学校現場において留意すべきポイント
(1)安全性を考慮した適正利用
年齢制限や保護者の同意、生成物のライセンスの所在など、生成 AI サービスの提供者が定める最新の利用規約を確認・遵守する。
(2)情報セキュリティの確保
文部科学省が策定する「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」を参考に、各自治体の実態に即した教育情報セキュリティポリシーやそれに基づく実施手順等の策定・必要に応じた見直しを行い、それらを遵守する。
(3)個人情報やプライバシー、著作権の保護
個人情報保護法等の関係法令等を遵守する。意図せず他人の著作権を侵害してしまわないように、生成 AI と著作権制度に関して正しく理解する。
(4)公平性の確保
不当で有害な偏見及び差別が生じることを避けるため、バイアスが含まれ得ることに留意し、公平性を欠くことがないよう、人間の判断を介在させる。
(5)透明性の確保、関係者への説明責任
生成 AI サービスの利用目的やその様態、リスク等の必要な情報を整理し、必要に応じて教職員や児童生徒、保護者等への説明の機会や問合せの窓口を設ける。
教職員が利活用する場面
(1)基本的な考え方
校務において利活用することで、業務の効率化や教職員の働き方改革につなげていくことが期待されているようです。また、教職員自身が生成 AI の利活用を通じて新たな技術に慣れ親しみ、利便性や懸念点、付き合い方を知っておくことは、児童生徒の学びをより高度化する観点からも重要とされていました。
(2)具体的な利活用場面
・授業準備(教材や問題の試案の作成/授業のシミュレーション)
・部活動(練習メニュー案の作成) ・生活指導(アンケート試案の作成)
・教務管理(時間割・授業時数案の作成)
・学校からの情報発信(各種お便りの試案の作成/HP記事案の作成)
・校内研修(研修資料の試案の作成/要約・議事録案の作成)
・外部対応への支援(懇談等の日程調整/挨拶文の作成)
(3)利活用の際のポイント
・教育委員会の方針に基づき利用する。
・成績情報等の重要性の高い情報を入力してはならない。 ・機械学習の設定を確認する。
・著作権に留意する(授業目的の範囲を守る)。
・ハルシネーションやバイアスを意識する。 ・適切な利活用がされているか適宜確認する。
児童生徒が利活用する場面
(1)基本的な考え方
生成 AI の基本的な特徴を理解させた上で、自己の判断や考えが重要であることを十分に認識させられるかなど、発達段階や各教科等における学習状況等を含む児童生徒の実態を踏まえ、教育活動が可能かの見極めが重要とされています。特に小学校段階の児童に直接利活用させることには慎重な対応を取る必要があると述べられています。
また、学習場面での利活用は、資質・能力の育成を阻害しないか、教育活動の目的の達成に効果的か確認することが重要とされており、生成AIの特徴を理解できない、学習目的の達成につながらない、適正な評価の阻害や不正行為に繋がるなどの場合は活用すべきではないとされています。
(2)具体的な利活用場面
利活用が考えられる例
・情報モラル教育(生成AIの性質や限界について)
・議論を深める(生成AIに意見をもとめ、視点を増やす)
・英会話(単語・例文リスト/外国人児童生徒等の日本語学習)
・生成AIの利活用方法の学習(文章の推敲)
・高度なプログラミング
・パフォーマンステスト
・各児童生徒の進度に合わせた学習
不適切と考えられる例
・情報モラルを含む情報活用能力が十分育成されていない段階での使用
・生成物をそのまま自己の成果物として使用する/コンクールに提出すること
・表現活動等における安易な使用
・教科書等の質の担保された教材を⽤いる前の安易な使用
・教師がコメント、評価に使用すること
・定期考査や小テストでの使用
・安易に⽣成 AI に相談させること
(3)利活用の際のポイント
・教育委員会の方針に基づき利用する。年齢制限に注意し、必要あらば保護者同意を得る。
・機械学習のオフ設定をする。
・氏名や写真等の個人情報を入力させないよう留意する。
・教師は児童生徒にバイアスの存在を理解させた上で、出力を常に慎重に判断し、ファクト
チェックを行うよう指導する。
・児童生徒が生成 AI の特徴に留意して利用できているかを確認する
教育委員会が押さえておくべきポイント
(1)基本的な考え方
教育委員会が主導して制度設計や利活用の方向性を示すことが重要であり、その際は硬直的な運用は望ましくないと述べられています。
(2)適切な利活用のために考慮すべきポイント
・本ガイドラインをよく理解し、域内の各学校の実態を十分に踏まえた柔軟な対応を講じる
ことが必要。
・最新の「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」も踏まえつつ、教育現場の実態に即した教育情報セキュリティポリシーを教育委員会が策定し、必要に応じて見直すことが重要。
・最新の「教育データの利活用に係る留意事項」等も参照しながら、個⼈情報保護法等の関係法令等を遵守し、個人情報の取扱いに関して必要かつ適切な措置が取られているかの確認を行う。
・生成AIの適切な利活用に関して、学校に対して適切な情報提供や研修等のサポートを行うことができるよう、体制の整備や知見の収集に努める。
・学校現場に生成 AI サービスを導入する際は、その目的やサービス内容、規約等について、適切な利活用を実現するための研修を実施するなど、丁寧な情報提供を行う。
所感
素案に目を通してみて、生成AIの本格運用に向けて進んでいると感じました。特に教師の活用に関しては、早い段階に開始するのではないかという印象を受け、私個人としては嬉しく思いました。やはり、生成AIを理解するためには実際に使用することが1番です。使用することで、生成AIのメリット・デメリットが理解でき、子どもたちへの教育に活かすことができます。また、このブログでも活用例について紹介したいと思います。
一方、教員の皆さんには児童生徒の利活用については注意していただきたいと思います。使えそうなものは積極的に取り入れたくなりますが、生成AIは利便性が高い反面、リスクも大きいです。
ガイドラインを読むと生成AIを運用させたいが、留意点が多すぎて意図が伝わらないジレンマのようなものを感じます。生成AIの普及に応じて各国でも法規制やガバナンスの強化が進められています。例えば、EUではリスクの高いAIシステムには厳格な規制を課しています。それだけ留意点が多いということです。我々、大人でも使用を誤るのですから、子どもだと尚更です。
そのためにまずは情報活用能力を育みましょう。生成AI自体を理解させる教育は小学校段階から実施可能とされています。生成AIの仕組み、バイアスやハルシネーションなど小学生に理解させることは中々、難しいです。どのような学習方法がよいか私自身も検討していきたいと思います。

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